デジタルメディア研究会・報告 2002.11 |
お知らせ(報告)
「SKIPシティとデジタル映像の未来」について
第33回デジタルメディア研究会
CGグランプリ実行委員会 八文字俊裕ーーー(2003.6.8)
日本映像学会・デジタルメディア研究会は同・ミュージアム研究会、日本VR 学会・VR文化フォーラムと共催で 、「SKIPシティとデジタル映像の未来」と題する研究会を去る3月30日(日) "SKIPシティ−彩の国ビジュアルプラザ" で開催した。
"SKIPシティ"は、埼玉県がNHKや地元川口市の協力を得て2月オープンしたさいたま新産業拠点のSaitama Kawaguchi Intelligent Parkの頭文字をとったもので、映像関連産業や映像文化を育成する新しいスポットとして期待がもたれている。
"SKIPシティ"の中の彩の国映像ミュージアム館(八木信忠館長)ではオープン記念展「河口洋一郎ワールド」が開催されており、当の河口洋一郎座長が作品解説を行った。
またNHK出身の為ケ谷秀一氏(女子美術大学)から高精細映像について、NHK技研の深谷崇史も交えて、デジタル映像の応用の可能性を探り、映像ミュージアムとしてはメディアアート展をこれまで数々担当してきている東京都写真美術館の森山朋絵さんを交えて「デジタル映像の未来」について意見を交換した。進行は岡田智博(東京大学大学院研究生)さん。
河口氏「CGを始めたのは1975年でかれこれ30年位前になる。その当時大学でCGに取り掛かったのは白・黒の点のみで構成するワイヤーフレームの作品だった。当時は美術系の大学でコンピュータを使うのは稀で、なぜ美術作品の中に数学を持ち込むようなことをするのかなどと云われたという。今では美術系の大学ではコンピュータ教育が盛んでコンピュータを使わない方が珍しい。
当時の自分の作ったCG作品を今改めて図録で見ると確かにアートには見えない部分もある。しかし自分にとっては、これらの作品は刻々と動いている。この時間の変容を描くことがものすごく重要な事だった」。
などなど、昨年4月から5月にかけて茨城県のつくば美術館で開かれた「河口洋一郎のCG世界―成長・進化する電脳宇宙」の作品リストに基いて年代順に解説を行った。
続いて為ヶ谷氏「NHK技術で番組作りをやり、高精彩映像を担当した。SKIPシティーの中の‘NHKアーカイブス’も来館者が3万人を超えたそうだが、ここの中で放送初期のころから技術革新が行われ、めまぐるしい進歩を遂げていることを体験することができる。放送初期には番組の録画テープの編集時のカット作業が難しくテープも高価なため収録番組はどんどん消した。ハイビジョンのテープの値段が60分30万円(現1万円前後)もした」などの放送初期の珍しいエピソードも交え披露した。このあとPCレベルで可能な番組制作の情報管理のための“デジタル制作情報システム”の導入について。“高精彩映像の可能性について”特に映像の保存方法についてやNASA、JPLの衛星観測の画像データの導入などについて発表があった。1997年には火星探査ロボット"Mars Pathfinder"のデータをHDTVで画像化し3D立体映像化を図った。このような活用はハイビジョン映像でなければできなかった。"スペースシャトルとHDTV"では1998年の向井さん、2000年の毛利さんの両宇宙飛行士が撮影した地球のクリアーな画像が紹介された。
東京都写真美術館の森山朋絵さん「CG作品を美術館の中で展示することはまだまだ理解が少なく取り上げる機会も少なかったのだが、新しい映像ミュージアムがオープンする例としては、SKIPシティー以外にも最近の仙台メディアテーク、山口市芸術情報センター、'97年オープンのNTTのインターコミュニケーションセンター(ICC)それにもうすぐオープンする金沢市の21世紀美術館があり、この分野を扱う美術館が少しずつ増え始めている。
海外では動画にしぼってみるとロンドンのムービングイメージ美術館、ニューヨークにもムービングイメージ美術館があり、フランクフルトの映像博物館、トリノの映像博物館などやフランスにはラ・ディエットなどの映像に関する重要な文化施設がある。さらに現代美術の分野に関わっている例としてはオーストリア、リンツのアルスエレクトロニカセンターなどが大きな成果をあげており、日本の映像館などに好影響を与えてきている。
東京都写真美術館は"映像工夫館"として昨年から5つのコレクション展や現代美術作品を含むメディアアート展を開いてきたが、これらを更に"映像体験ミュージアム"というタイトルで全国6館を巡回中で、今年度巡回の仙台メディアテーク(4月)、つくば美術館(7月)、博多の福岡市博物館(11月)での開催を告げていた。東京都美術館は昨年の入場者が36万人あり都庁内での評価も徐々に上がっている」 等と語った。
NHK技研の深谷崇史氏「放送技術研究所で映像を使ったヒューマン・インタラクションの開発を行っている。例えば"最後の晩餐"の一部に虫眼鏡を当てると拡大された部分がリアルタイムにモニターニに映し出される。そこには複雑なディジタル映像の伝播などは見えることもない。コンピュータのイメージが付きまとうので、これを何とかしなければというのが、研究のターゲットである。"教育フエアー"なども担当しているが参加した人々がやさしく接することができるインターフェースはなんだろうかを研究している訳です。携帯電話の使い勝手も年配者がコミュニケーションできる優しさが必要だ。同じようにデジタル放送しようとするときにやさしいコミュニケージョンとはなにか、デジタル放送時代の次の新しいキーワードはなにかを探る必要がある」。又5月23日から25日まで4000本の走査線を持った新しいモニターなどの新技術をNHK技研研究所で披露することなどを語った。
このあと、発表会場を移動し、'彩の国ビジュアルプラザ'の一角に展示されている河口洋一郎氏のCG作品が取込まれているレンチキュラーの立体パネルを見学した。
(川口市SKIPシティー http://www.skipcity.jp/sainokuni/index.html )
(本稿は日本映像学会会報第123号の筆者寄稿文に基ずくものです。)
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